ワイドギャップ半導体と共に切り開く未来

  • ワイドギャップ半導体を利用した超低損失電力ネットワークシステムの実現
  •  現在、一次エネルギーの内で電力エネルギーの占める割合は4割強であり、近年の高度情報化社会の進展やクリーンエネルギー利用の推進等を考えると、その割合は増加の一途を辿ることが予測されています。ワイドギャップ半導体は、バンドギャップが大きいだけでなく、絶縁破壊電圧や熱拡散係数が大きい等の特色から、素子の小型化や冷却機器の簡素化をはかることができるため、低損失ハイパワー電子デバイス用材料としての期待がもたれています。仮に、もしも現在使用されているSi系電力変換器が全てSiC等のワイドギャップ半導体素子で構成されたものと置き換わると、約8%相当のエネルギー損失分が半減され、これは原子力発電所約6基分の低減に相当します。
     私は、ワイドギャップ半導体を利用した、21世紀にふさわしい損失の少ない電力ネットワークシステムの実現を将来的な目標として掲げています。

  • ワイドギャップ半導体による宇宙開発用電子デバイスの実現
  •  ワイドギャップ半導体のもう一つの特長として、耐極環境での動作が可能であることが挙げられます。例えば、高温動作が可能であるため、自動車内部(エンジン周辺等)や放熱効率の低い宇宙空間においても設置できるデバイスが実現できます。また、耐放射線性も有する材料であるため、原子力施設や宇宙空間においての長期高信頼性動作を可能としたデバイスも実現可能です。私は、このようなワイドギャップ半導体の応用例の中でもとりわけ宇宙空間利用に着目しました。最近の我が国における宇宙開発の進展は目覚しいのですが、これまでに電源系のトラブルにより失った人工衛星は少なくありません。ワイドギャップ半導体で構成された電力系統を搭載すれば、高い耐極環境性能と長期信頼性、および低い電力損失を同時に達成できるので、宇宙開発におけるエレクトロニクス部門の急速な進展が見込まれると考えられます。

     以上の様な目標を見据え、以下のような具体的戦略を打ち出しています。
  • 半導体接合界面の微細構造ならびに電子構造の観察及び解析
  • ワイドギャップ半導体のミクロ構造制御による次世代電子デバイスの実現
  •  すなわち、“ミクロなもの (原子スケールの構造評価・制御) ”を以て“マクロなもの(電力ネットワーク、宇宙電力系等) ”を制す。そんな合言葉とともに、これからの研究開発を推進していきたいと考えています。